優秀な人材を採用するため、各社がしのぎを削って採用活動を行っていますが、魅力的な求人情報をつくるのは簡単なことではありません。そこで注目したいのが、生成AIを活用した求人票作成です。
本記事では「どのような手順でAIで求人票を作成するのが最適か」「どの程度の精度が得られるのか」を検証していきます。
検証を行ったのは、労務管理特化型のAIを自社開発をしている株式会社HRbase代表の三田です。AI開発のノウハウを元に、実践的かつ再現性の高い方法を目指して作成してみましたので、自社の採用業務にAIを取り入れるきっかけとして活用ください。
今回の検証で求人票を作成する職種
求人票作成の実証実験を始めるにあたり、まず検討すべきなのは対象とする会社と職種の選定です。一般的な社労士事務所や人事部門の求人で試してみることも可能ですが、そうした仮想的な職種では、最終的な品質評価において判断基準が曖昧になってしまう恐れがあります。
そこで今回の検証では、より具体的な評価を可能にするため、実際に当社で募集しているマーケティングメンバー(2025年5月時点)の求人を題材にしたいと考えています。実際の募集内容をベースにすることで、生成AIによる出力の精度や実用性をより明確に検証できると思います。
プロンプトなしだとこうなった
求人票をAIを活用して作成する場合、最も重要となるのは、どの程度の前提情報をAIに提供するかという点です。このインプット情報の質と量が、最終的なアウトプットの精度を大きく左右します。
そこでまずは、社名のみをプロンプトとしてChatGPTで作成をしてみます。指示をしたのは以下の短い文章のみです。
株式会社HRbaseのマーケティングメンバーの求人票を作成してください。 |
ChatGPTはウェブ上の情報などをまとめ、以下のような求人票を作成してきました。
【求人票】マーケティングメンバー募集|株式会社HRbase ◆会社概要 社名:株式会社HRbase 所在地:〒○○○-○○○○ 東京都○○区○○1-2-3 HRbaseビル 設立:20XX年X月 従業員数:XX名 事業内容: 中小企業向け人事労務クラウド「HRbase」の開発・提供 人事労務コンサルティング事業 労務DX推進支援 ◆募集背景 事業拡大・新規プロダクトのリリースに伴い、マーケティング体制を強化するため、新たなメンバーを募集します。戦略設計から実行まで幅広く関わっていただける方を求めています。 ◆募集職種 マーケティングメンバー(正社員) 業務内容 ・オンライン・オフライン施策を含むマーケティング戦略の企画立案 ・コンテンツマーケティング(ブログ、ホワイトペーパー、メルマガ等)の企画・制作ディレクション ・MAツールやCRMを活用したリードナーチャリング ・ウェビナーや展示会等のイベント企画・運営 ・Web広告(Google、SNSなど)の運用・改善 ・効果測定・レポーティング業務 ◆必須要件 ・BtoBマーケティングの実務経験(2年以上) ・デジタルマーケティングに関する知識 ・社内外の関係者と円滑にコミュニケーションが取れる方 ◆歓迎要件 ・人事労務やSaaS業界での業務経験 ・MAツール(HubSpot, Marketo等)の使用経験 ・コンテンツ制作(ライティング・ディレクション)のスキル ・スタートアップやベンチャー企業での勤務経験 雇用形態:正社員(試用期間3ヶ月) 勤務地:東京都内本社/リモートワーク可(週2日出社) 勤務時間:フレックスタイム制(コアタイム:11:00〜15:00) 給与:年収400万円〜700万円(スキル・経験を考慮のうえ決定) 昇給・賞与:年1回査定/業績賞与あり 休日・休暇:完全週休2日制(土日) 祝日:年末年始休暇、有給休暇、特別休暇(慶弔・育児等) 福利厚生:社会保険完備、交通費支給(上限あり)、書籍購入補助・セミナー参加補助、リモート手当 、フリーアドレス制度 ◆選考フロー 1 書類選考 2 一次面接(人事) 3 二次面接(現場責任者) 4 最終面接(代表) ※選考過程で課題提出をお願いする場合があります。 ◆応募方法 履歴書・職務経歴書(PDF形式)を以下のメールアドレスにご送付ください。 応募先:recruit@hrbase.co.jp ◆採用担当者より 「人事労務をもっとシンプルに」。そんな想いに共感し、共にプロダクトと会社を育てていく仲間を探しています。まだまだ小さなチームですが、自由度の高い環境で裁量を持って働きたい方にはぴったりです! |
求人票としての情報はある程度網羅できていますが、当然ながら内容が薄く、このままでは利用できないため、もう少しブラッシュアップが必要です。(とはいえ、これだけの情報でそれっぽい求人票ができてしまうのはAIのすごさでもあります)
AIで求人票を作成する流れ
ここから精度を上げていくのですが、そのとき、AIにどのような情報を読み込ませればよいのでしょうか?
これまでは、命令(プロンプトの書き方)が重要だとされてきました。
もちろん現時点でもそれは変わりません。
しかし、
・AIの思考能力が飛躍的に高まってきていること(すでに人よりも圧倒的にIQは高い)
・AIが読み込める情報が大きく増えたこと
・背景情報(世間の状況など)やノウハウを調べる手間がDeepResearchによって大きく減ったこと
という変化もあり、「精緻なプロンプトより、さまざまな情報を与えてAIに考えさせる」という方法の精度の方が高くなってきています。したがって「求人票作成に必要な考え方や情報とは何か」を最初に定義することの重要度が増しています。
・自分たちが置かれている環境はどのようなものか(背景情報)
・自分たちがどのような事業を行っているか(自社情報)
・自分たちがその職種に求めるものは何か(自社情報)
・3C分析で競合他社と比較したときに魅力的に見える内容とは何か(ノウハウ)
などを調べて、それをAIに提供してみましょう。もし理論的なフレームワークに不安がある場合は、DeepResearchを活用してAIに知見を求めるのも一案です。
求人票を作成する前の3C分析もAIで
AIに理論から考えてもらう方法もありますが、求人票には3C分析の活用がおすすめです。今回も、求職者・競合(他社)・自社(強み・文化など)の観点から分析して求人票を組み立てています。

3C分析の要素① 自社情報
まず、自社情報を調べます。もちろん自社の話なので自分で書くこともできますが、面倒なためDeepResearchでまとめてもらいましょう。なお「網羅的に多角的な視点で」のようなプロンプトを入力することでレポートの内容が深くなるためおすすめです。

結果がこちら。(あまりにも長いため、割愛します)

この内容を自社情報として保存しておきましょう。また、市場環境をより正確に反映させたい場合は、「生成AIの技術や市場は急速に変化していますが、AIサービス提供企業に現在求められているものは何か?」といった調査を実施し、そのデータを活用することも効果的です。
3C分析の要素② 候補者
次のステップでは、①の情報を基に理想の人材像を具体化していきます。この作業はAIに分析を依頼することで効率化できるでしょう。もちろん、自社の状況を最もよく理解しているのは現場の担当者です。そのため、人材像を自ら定義することも有効な選択肢となります。
他にもさまざまなアプローチが考えられます。たとえば、
・社内で活躍している社員のエピソードを資料として提供し、そこからAIに理想の人材像を抽出してもらう
・既存の求人票を、先ほど整理した情報に合わせて再構成してもらう
なども可能です。どの手法を選ぶにせよ、最終的には自社の実情と戦略に合致した人物像を描き出すことが重要です。
以下はDeepResearchを使っています。


DeepResearchの場合はこうやって聞き返してくれるのがよいですね。
そして、結果としては以下のようになりました。当社のバリューなども調べてくれています。

かなり明確化できてきました。
ここからさらに、このような人物が会社に何を求めるかについても調査してもらいます。

3C分析の要素③ 競合他社
最後は、②の情報をもとに競合他社の情報を調べてもらいます。
今までと同様にDeepResearchを使います。
明確な競合(採用上、相対することが多い会社)があれば、社名を入力してください。


出力された結果がこちらです。

さまざまな求人メディアから情報を取得し、近い領域のSaaSの情報を出力しています。このように、DeepResearchは競合他社や市場環境を調査する際にかなり役に立ちます。
いよいよ求人票を作成する
①~③の情報が集まったら、まとめてAIに投げていきます。
最初に役割定義のプロンプトを入れています。それ以外は基本的に今までに作成した情報を入れています。(AIにさえわかればよいので、人が見るには見づらい部分もあります)
情報を張り付けたプロンプトは28000文字にもなりました。こちらは後日、配布させていただけるよう準備を進めています。
これらをすべて自力で入力しようとするとかなり大変でしたが、DeepReseachなどを活用することでこれだけの情報を前提条件としてAIに提供することが可能になりました。上記を見ていただけるとわかる通り、私自身が入力した内容は1000文字にも満たないです。
ここまでかかった時間は約1時間。
ほとんどの時間はDeepResearchの待ち時間です(1回あたり10分以上かかるため)。
出力された求人票がこちらです。


最初の求人とは違い、かなり踏み込んだ内容になっていること、実際に求める人物像が魅力を感じそうな求人になっていることがおわかりいただけますでしょうか?
ちなみにClaudeにて同じプロンプトで出力してみましたが、こちらも魅力的な文章で出てきました。
これだけの前提条件が揃うと
・スカウトメール文章の作成
・職務経歴書のチェック
・採用セミナーの立案
なども精度高く作成することができます。
今回チャレンジしてみて
求人票の作成には、求める人材像の言語化や、他社の求人を確認して差別化を行うなど多くの作業が付随します。1日仕事だと言っても過言ではありません。
また3C分析などのフレームワーク自体はよく世間では語られているものの「このフレームワークにいちいち入力して精査するぐらいなら感覚で求人票を作ってみた方が早い。とりあえずやってみる!」というように、実務の現場ではフレームワークを無視してしまうケースがほとんどです。
AIは、「その領域の教科書を示せば、自社を公式に当てはめてアウトプットを作ってくれる」優等生ツールです。今まででは「正しいやり方だとわかっているが、面倒だからやっていなかった」ことをスピーディに実装することができます。
さらにAIのアウトプットを精査したデータは資産となり、それ自体を他の業務にも活用でき、自分の考えや社内のデータがどんどん言語化されていくというメリットもあります。
AIを使うことにはまだ障壁をお持ちかも知れませんが、一度試してみると、このスピードに病みつきになりますので、ぜひ1時間だけでもチャレンジしてみてください。

当記事は、人間と生成AIの共同作業により執筆しています。
人とAIの作業比率 2:8